「アイの物語/山本弘」(文庫版)読了

山本弘は昔よく読んでいた SF作家(ですよね?)なんですが,とんとご無沙汰してました.ハードカバーが文庫化されたので,35歳を迎えた最初の読書作品として選んでみました.・・・彼の作品の中で一番の大傑作でした!

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

物語冒頭は人類とマシンが争う荒廃した未来・・・100万回も使い古された世界観を舞台に,美少女A.I.ロボットと少年とのバトルという1000万回も使いまわされたシーンから物語は始まります.反吐が出ますねww その後少しいろいろあって,千夜一夜物語のような展開でショートストーリーが語られて行く・・・というのが本書の骨子です.この本,SF短編集なのです.
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そんなわけで,北斗ワールド(ターミネーター?)なコテコテ展開の冒頭の印象は最悪でしたw 山本弘が重度オタクなのは有名なところですが,オタクなオナニー小説なのかなと思いましたよホント.そして全編を読み終わった今は・・・,スマンかった山本弘! お前はただのオタクじゃなかった.ホントに SFが好きで,小説が好きで,物語の力の可能性を信じている真面目なオタクだったんだね! 悔しいけど最高に面白かったよ・・・.
収録されている SF短編は,A.I.人工知能)に関する作品群.ジュブナイル的なものから,ハードSFなもの,スタートレック仕立てのものから少し不思議系なものまで様々.それをアイビスという名の A.I.ロボットが主人公に語りかけていきます.その一つ一つの短編もスマッシュヒット揃いでとても楽しめた.
その楽しさのなかで,その短編を読んで行くと少し記憶にひっかかるものがあった.これって,ずっと昔に読んだ同じ山本弘の「サイバーナイト」から繋がってないか? 「サイバーナイト」は第1ブレイクスルーに達したある人工知能と人類を含む銀河系の知的生命体との戦いを描いた SF小説なんだけど,その中では戦いと同時に人類の宇宙戦闘艇に搭載されたA.I.コンピュータの成長や人類との協調についても描かれている.(敵となった人工知能の葛藤も同時に描かれている) その成長や葛藤の様子と,アイの物語でのショートストーリーの内容がつながっているように感じたのだ.
本書を読み進める毎にその疑問は確信となった.彼はこの頃からずっと人類と,その人類が生み出した(生み出すであろう) A.I.との関係性が命題だったのだと思う.それを SFという物語で追求しようとしてたのではないか.それはある意味 A.C.クラークの「幼年期の終わりに」で提示された命題に近い.この作品はクラークの哲学に対する山本弘流のアンサーストーリーなのではないか.(単なる勘違いかも)
でも,ホントにそう考えちゃうくらい深い作品だったのよ.最初は単なる千夜一夜物語かと思ってたけど,どんどんのめりこんで,最後の 2話くらいではホンキで A.I.と人間との繋がりについて考えた.そしてアイビスのお話(彼女の真実ですね)で,彼女に深く共感・・・じゃないね,彼女を許容したw
この物語はアイのお話です.アイの真実は僕と皆(そしてまだ見ぬ知的生命体)とでは違うかもしれないけれど,お互いに許容できればいいなと思います.